伝説の名ドライバー片山義美氏が逝ってから2年が過ぎようとしている。
それから約2年以上経った2018年、いよいよカタヤマレーシングが沈黙を破り再始動を始めたとの噂を聞きつけ、急遽、神戸まで駆け付けた。
筆者とカタヤマレーシングとの関係は、今から遡ること約40年前、初代RX-7(SA22C)の時代からだが、その頃のカタヤマレーシングは飛ぶ鳥を落とす勢いで、ロータリー乗りの間では神聖なるショップであった。
その後、義美氏は2003年に有限会社カタヤマヨシミプロモーターを立ち上げ、現代表の勝美氏とそれぞれ別の道を歩むことになるのだが、昨年から片山義美氏の遺志を継ぐ形で再始動を始められたようだ。
その第一弾として新たにサスペンション開発を開始されている現場にお邪魔してインタビューを敢行した。
インタビュアー M.T 写真 (有)カタヤマレーシング Evoluzione
開発に至るまで
インタビュアー M.T 今回はカタヤマレーシングからリリースされたサスペンションの開発秘話などをお伺いできればと思い、神戸にやってまいりました。宜しくお願い致します。
片山勝美(以後K.K) こちらこそ、宜しくお願いします。
谷川達也(以後T.T) 宜しくお願いします。
M.T そちらにいらっしゃるのは、レーシングドライバーの谷川達也さんだと思うのですが、今回の開発に携わっておられるのですか?
T.T はい。直接の開発に携わるというより、実際に乗ってみてテストを行ったり評価をさせてもらう感じです。
K.K 親父が以前に開発していた既存のセッティングや方向性を現在の車にマッチングさせるようにアドバイスしてもらおうと思ってます。やはり現役プロドライバー視点からのアドバイスは参考になりますし。
M.T そういえば谷川選手はマカオでRX-8に、最近では現行デミオやアクセラなどで活躍されてますもんね。それは心強いと思います。
T.T 実は僕が生まれて初めてレースを観戦した時の優勝ドライバーが片山義美さんで、たしか1982年頃の鈴鹿500km。マシ ンはデサントカラーのグラチャンでした。その時の感動からレーシングドライバーになって今があるので、なにか不思議な縁を感じ ますね(笑)
K.K そんな縁もありまして(笑)お願いしています。
M.T では、話を戻しまして(笑) まず、先ほど勝美さんがおっしゃってました「既存のセッティング」なんですが、具体的にはどの様なことでしょう?
K.K はい。まず親父が生前に開発した既存の製品があります。RX-8やFD等ですが、これらは減衰力など数値としてデータが残っていますので、忠実に再現し製品化していく事にしました。親父がこだわっていた事を継承することがカタヤマレーシングの使命だと考えております。
ただ、データを元に製作しただけではどうしてもダメな部分もあるのです。例えば製造する工場が変更となる製品もあるので、それに関してはやはりテストを行って実際にチェックしなければなりません。
M.T そこで谷川選手の登場なのですね?
K.K 僕も親父からドライビングやセッティングの方向性を散々叩き込まれたので、ある程度は開発することは出来る自信はあるんです。
でも残念ながら親父みたいに世界を相手に戦った経験はありません。そこで世界でも戦ってきた谷川選手に、僕が親父から散々叩き込まれた方向性やノウハウを伝え、谷川選手には実際にテストしてもらって開発していければ現在にも通ずる製品が出来上がると考えたんですよ。
実際、谷川選手はアジアンルマンシリーズの年間チャンピオンですし、その辺は信頼できると思ってます。
![]() |
目指す方向性
T.T いやー凄いプレッシャーです(笑)ただ、今回乗らさせていただいたRX-8と勝美さんから聞く義美さんの方向性は理解できました。そして、この方向性は自分が思う方向性と一致している部分がかなりあるので、そういった意味ではやり易いですね。
M.T 具体的には?
T.T まずは簡単にいうと「動く足」ですね。よくガチガチに固めてロールを減らす方向でセッティングする場合がありますが、それでは車の持つポテンシャルを引き出す事が難しくなります。
なんの凹凸もないコースでしたらタイヤ四輪がすべて路面に接することが出来るので、ただ固いだけでも良いかも知れません。まぁボディの剛性とか取り付け部の話は置いといて、ですが。
でも、実際にはそんな真っ平なコースなんてありません。サーキットでもそんなコースは無いです。だから「動く足」が大切なんです。
K.K それなら柔らかい足がいいのかと言うと、それは違います。ロール角が大きくなると外側が底付きしますしその跳ね返りも発生し安定しません。ストロークが短い足だと簡単に内側が浮いてしまいます。
要は固いだけでも柔らかいだけでも結果として外側のタイヤにだけ仕事をさせてしまう事になるのです。
M.T 奥が深そうですね。あまり専門的な事は分かりませんが、要するに固すぎても柔らかすぎてもダメという事ですか?
K.K うーん・・・まぁそれはそうなんですが(笑)例えばFD3Sでいうとボディー剛性が低いため固いスプリングを使用すると高い速度でのコーナリング時にボディーがねじれます。
解消方法として縮み側はかなり固く、伸び側はリバンピングカットを強めにセッティングします。伸び側を強くするのは、コーナリング時に内輪が浮き上がるのを防ぎ、確実に4輪にグリップを伝えるためです。
つまり車の姿勢の変化を極力少なくするんです。結果としてロールもかなり抑えることになります。
T.T これはサーキット走行だけの話ではないんです。先ほど六甲山の一般路を走りましたよね?
M.T そういえば、路面は結構デコボコしていました。
T.T イン側のタイヤでも前輪は凸に後輪は凹に乗る状態が結構あります。これをスムーズに走行するにはやはりしっかりと動く足が必要なんです。これは乗り心地にも大きく関与します。
M.T 良くなる。
K.K 車の姿勢が安定するということが結果として乗り心地も良くするんです。
M.T なるほど。ようやく、なんとなく理解できそうになりました(笑)
※確かにイン側の路面より下がったコンクリート部にタイヤが通過してもボディは水平に保たれており、イン側のタイヤも確実に路面をとらえているのがわかる。 |
※法定速度内での走行画像です。一般公道では安全運転を心掛けてください。 |
これからの展望
M.T ところで今回からリリースする製品ですが、車種はどうなっていますか?
K.K FD3S FC3SのRX-7にRX-8。それにNDロードスターです。これらは通販および全国のオートバックスでもご購入いただけます。またパートナーショップでもご購入いただけますので、ホームページでチェックして頂ければと思います。
M.T そういえば谷川選手はオートバックス・サンシャイン神戸のデモカーの開発もされていますよね?
T.T マツダ車ではないですが…(笑) なので、サンシャイン神戸に来ていただければ対応させて頂きます。
K.K 神戸なら直接ウチに来ていただいても大丈夫ですよ(笑)
M.T あはは。(一同・笑い)では、ついでに質問します。他に開発される製品はありますか?
M.T すでにECUなども開発済みで通販や全国のオートバックスでもご購入いただけます。またTシャツやキャップなどのウェア類やキーホルダー、現行デミオなどのリップスポイラー等もあります。
T.T 実はECUも間接的に開発に携わっていたりします(笑)
M.T そうなんですか?
T.T 話せば長くなりますが、これに関しても不思議な縁がありまして(苦笑)
K.K 色々お世話になってます(笑)
M.T では、最後に。今後のカタヤマレーシングの活動は?
K.K まず、カタヤマレーシングクラブが復活しました。サーキットでの走行会やドライビングレッスンなどマツダファン、カタヤマファンの方々に喜んで頂けるイベントやキャンペーンを行う予定です。
ちょっと忙しくてまだ具体的に動けてませんが(苦笑)
その辺りの情報は随時ホームページでご案内させて頂きます。
T.T ドライビング関係はお手伝いさせて頂きます(笑)
M.T 本日はお忙しい中、ありがとうございました!
最後に
まず印象的だったのは勝美氏の明るい笑顔だ。2年前に神戸で行われた義美氏のお別れ会の時からは想像が出来ないほどである。
それから辛い日々を過ごされたようだが、今は前を向いて進むという熱い意志が感じられた。
カタヤマレーシング再始動。これは全国ロータリー乗りの明るいニュースでもあり希望でもある。
あの頃の伝説が再び始まるであろう瞬間に立ち会えて光栄だと思う。
M.T